松田修 「オオカミ 少年 ビデオ」@無人島プロダクション

さすがはChim↑Pom所属のギャラリー(プロダクション)だけあってとても面白い作品群でした。だいたい、チムポムと同系統、みたいなイメージでいいかと思います。

オオカミ少年ビデオ」という名前通り、映像作品(及び付随する写真作品)と少しばかりドローイング、1点のインす多レーションの個展です。作家は東京芸大の油絵の修士を卒業されたばかりの新人さんです。なかなかイケメンでチムポムの後では「どうせDQNだろ」とか言われるのでしょうか。あるいは芸大出身だからそんなこと言われないのかな?その辺の反応は見所ですが、逆にそういう反応が引き出せれば成功とも言えるわけで。難しいところではあります。

さて、作品ですが、本当におばかな作品ばかりです。

自分の足の片方の毛をそってペディキュアを塗り、もう片方の足と絡める映像の上に、あえぎ声をかぶせることでアオカンを妄想させる作品。

尿道を口に見立てて「包茎なんて差別だ」と主張する『インケイ先生の提言』

ぶっといソーセージにかぶりついているかと思いきや、実はその先には肛門が!要するにウンコ食ってたのね。

川におしっこしてたらいきなり血尿に!

パンチを繰り出すたびに屁をこいてしまうヘボイボクサー。

公園でホースから水を飲んでいる男。とホースのもう一方はペニスに繋がってたりして。

まぁこんな感じで本当にくだらないわけです。ただ、いくつかの作品がストップモーション(っていうのかな?)で作られています。要するに2枚か3枚の写真を連続して流しているだけなんですね。それに音を合わせることで時間性を生み出しています。こういう「時間」と「笑い」を意識的に作ろうとしているのかどうかよく分からない作品群だったので、実はあまり関係ないかもしれませんが、「音の持つ時間性」がはっきりと出ていたところは面白かったです。ただ、そうすると画像との関係が全くないので、多分作家さんは意識的ではないと思います。



さて、こんなバカな作品ばかり見て、それなりに楽しんだのですが、ポートフォリオを見てその100倍くらい楽しめました。この作家さん、とっても真面目な人で「原爆」や「死」、「ジェンダー」にガチで取り組んでいる作品がいくつもあります。

原爆が幽霊になったら一番怖いんじゃないかと思って製作した油彩画「原爆幽霊画」シリーズは流石は油絵といった筆致でかかれています。何で原爆が幽霊になったら怖いのか?ということについては作家自身はあまり深く考えていないかもしれません。ただ、厚塗りのマッドな絵の具の後と、繊細な線(それは個展で展示されていた鼻毛と、禿げオヤジの抜け毛にそっくりだ)からは恐怖を描き出そうとする意思が感じられます。幽霊は本来存在しないものが現れるから怖いのですが、広島で炸裂したリトルボーイorファットマン(明らかにその形です)もすでにありません。では、その幽霊に出会った私たちは何を怖れるのでしょうか?そのリトルボーイorファットマンが再び炸裂することでしょうか?おそらくそうした行為ではないはずです。もっと目に見えないものを怖れるのでしょう。それは存在そのものであり、また彼らの呪いであるはずです。私たちに亡霊のようにまとわりついてくるリトルボーイorファットマンが見えてしまったとき、リトルボーイorファットマンから逃れることのできない私たち=日本人が露呈されるのです。逆に言えば私たちの(歴史の)一部であるはずの原爆を忘却すること、あるいは鎮霊することで辛うじて並行を保っている日本人の根幹を揺るがすかもしれないのです。鼻毛とも抜け毛ともつかない細い線は、そのように私たちに刻印されたDNAなのかもしれません。とこんなことは作家さんは考えていないでしょうが、もし松田さんが見られていたらどう思うかな?(もし見てたらメール下さい)

その他、2001年に施行されたDV法によって、その年1331名(違うかも)が逮捕されたことに肖って、ストリートファイターⅡをモチーフに女性キャラクターチュンリーが1331回殴られる映像。死ぬ瞬間に小さくなってしまったマリオ。9.11で死んだ人の数だけ死んでしまうマリオ。などこの人は常に「死」に興味があるんですね。これらの作品は直接みたわけではありませんが、是非また見たい作品群です。



今回は無人島プロダクションという場所や初個展を意識してキャッチーな内容にしたのかもしれません。それはそれでとても面白い作品ばかりでした。でも個人的な要望を言わせてもらうと、やはり松田さん自身がずっとテーマにしている原爆とか死をガチンコでやってほしかったです。チムポムも長いことピカチューやった後、「ピカッ」を作ってしまったわけですが、松田さんもそうした<問題作>を見せてくれることを勝手に期待しています。


とはいえポートフォリオにもバカ作品はたくさんありました。女性器を三つ連ねた団子、女と団子さえあればOKという作品らしい。これは欧米ではアウトな気がする。いや日本でもアウトか。それから、東京タワーをチンポに見立てて光速でこすっているように見える映像作品、スーツを着たおじさんがお辞儀をする先には裸の男の性器が!?といった作品もあるので、そっち系専門の人も充分に楽しめるのです。



松田修 「オオカミ 少年 ビデオ」
会場: 無人島プロダクション
スケジュール: 2009年08月20日 〜 2009年09月19日
13:00-20:00
住所: 〒166-0003 東京都杉並区高円寺南3-58-15 平間ビル3F
電話: 03-3313-2170 ファックス: 03-331-2171