0000の活動を復習!!!

京都にギャラリーやショップを構える平均年齢24.5歳の0000(ゼロ4つでおーふぉーと読みます)が、中野ブロードウェイ内に村上隆氏が構えるギャラリーHidari Zingaroで約1ヶ月に渡って4つの企画展示、0000festを行うことになりました。第一企画が0000初の個展「We are 0000!」、第二企画が90年代生まれの油彩画家を集めた「オイルショック!―90年代生まれのオイルペインター」、年明けの第三企画が京都のアーティストを集めた「アートどすえ―京都芸術物産展」、そして0000がBLに仕立て上げられる「0000! OH,HOT!― 0000 BL Anthology」です。村上氏によるTwitterでの告知などですでにご存知の方も多いと思います。年末のアート界の話題をさらいつつある(?)0000ですが、彼らのこれまでの活動についてまとまったテキストはないようです。そこで、私の目から見た0000のこれまでの活動について振り返ってみようと思います。
0000ウェブサイト
Hidari Zingaroウェブサイト


■結成−SUPER ART PARTY
彼らの出会いは2009年8月に福島県いわきで行われたSUPER ART PARTYでした。83年生まれの最年長メンバー緑川さんが自らの出身地で開催したパーティーです。ここでは、4日間若いアート関係者が集まって夜通しアートを語りつくされたそうです。残念ながらこの企画のウェブサイトは見れなくなっているようですが、参加されたアーティスト久恒亜由美さんのブログには参加者として以下のメンバーが挙げられています。

遠藤 一郎 / 金暎淑 / 栗山 斉 / 坂川 弘太 / 谷口 創/ ダビ / Nam HyoJun / 帆苅 祥太郎 / 原田賢幸 / 久恒 亜由美
久恒あゆみさんのブログ

ダビという名前は0000メンバーの緑川さんが使用しているアーティスト名なので、ここで緑川さん、谷口さん、Nam HyoJunさんの3名が出会ったことになります。そして、2010年2月にNam HyoJunさんと上海でともに働いていたKim okkoさんを加えて0000結成となります。


■初企画−waiting for voice
彼らの初企画はギャラリーOPEN前に東京恵比寿のMAGIC ROOM???で開催されたwaiting for voiceです。私は実際に展示を見ていないのですが、以下のような内容だったそうです。


入るとホワイトキューブのつき当たりにループする0000ロゴ映像そこから聞こえる4人のざわざわ。でも誰もいない。目の前に机とマイクとベルがあってそれを鳴らしてマイクにこんにちわって言うと4人が反応して会話ができるシステム。
0000の四人が私の声を欲してると共に迎え入れてくれたような気持ちになった。ほぼタイムラグなく向こう(京都)と声でつながってるので普通に会話をしたよ。これからのことなど。
久恒亜由美さんのブログから抜粋


「声だけ」「Skypeで東京と京都をつなぐ」
このように一目見て作品と分かるモノを展示しない方法はのちの「壁を白く塗る」に、また自分たち自身を見せるという点はHidari Zingaroの展示で販売される彼らのポートレイト・ポスターにつながります。このときすでに彼らのスタンスが発揮されていたということになるでしょう。
シブヤ経済新聞の記事


在日コリアン−NEW VILLAGE
2月に京都五条に0000 galleryをオープンした彼らは通常のgallery運営と同時に独自の企画をいくつも開催していくのですが、ここで注目したいのは、3月に開催されたNEW VILLAGE展です。メンバーの二人Nam HyoJunとKim okkoは在日コリアン三世です。Nam HyoJunは0000結成以前の個人活動で、バービー人形にチマ・チョゴリを着せる作品や、VOGUE誌のファッション・フォトの上からチマ・チョゴリをペイントする作品を制作していました。その流れを拡大させて若手の在日コリアン・アーティストのグループ展として0000ギャラリーで開催されたのがNEW VILLAGE展です。とはいえ、在日コリアン・アーティストだからと言って在日をテーマにした作品だけを集めたわけではありません。確かに、在日コリアンなど政治的なテーマは現在のアートにとって重要なテーマではありますが、それを基準にした展示ではありませんでした。彼らはアイデンティティをテーマにした作品が得てして行き過ぎた主張になってしまいがちなことをよく分かっているのです。
私がここでNEW VILLAGE展を取り上げたのは、むしろ在日コリアンでも三世になると私たちとリアリティが極めて近いのではないかということです。Nam HyoJunさんやKim okkoさんの話を聞いてみると、彼らも私たちと同じようにときに朝鮮半島の政治情勢を「ネタ」にして笑い、ときに真剣に国家やアイデンティティの問題を語ります。しかし、彼らが私たちと異なるのは、私たちが普段意識していない問題を彼らは常に意識せざるを得ない状況に晒されているということです。だからといって、私たちと彼らが異なることを強調したいのではありません。むしろ、彼らは私たちが意識していない問題を明確に意識しているだけで、直面している事実は変わらないということが大切だと思います。そして、その事実に対する反応は結果的にとても似ているのです。彼らと私たちはあまり違わない。だから同じVILLAGEに住むことができるのです。彼らと緑川さん、谷口さんがともに活動をしていることがその証左になるでしょう。彼と私の境界ではなく、「私たち」がどのようなVILLAGEを築くことができるのか、そうした問いがNEW VILLAGEという展覧会名に現れていたのだと思います。

NEW VILLAGE
Nam HyoJunさんの個人ウェブサイト


■(わたし的に)話題沸騰−ART FAIR FREE
彼らの名を一気に広めた企画が毎年4月に開催される日本最大のアートフェア、アートフェア東京と同時期に原宿のVACANTで開催されたART FAIR FREEです。0000はART FAIR FREE実行委員会のメンバーとして、VACANTを運営するnOideaとMAGIC ROOM???スタッフ(当時)の新宅梓さんとともにこの企画を主催しました。私もTwitter上でのやりとりを除いて彼らと始めて会ったのがこの企画でした。
アート市場では当然ながら「お金」で作品を売買します。ART FAIR FREEでは、この「お金」による売買という制限が外されました。展示された作品を手に入れたいと観客(購入者)は、自分で考えたsomthingをアーティストに提示します。そして、アーティストが観客の提示を受け入れればそのsomethingと作品の交換が成立するという仕組みです。お金という制限を外す代わりに、観客(購入者)とアーティストの「交渉」を加えたということになります。
様々なメディアで取り上げられたこの企画ですが、お金「ではない」交換による新しいアートフェアとして紹介されていました。しかし、この点は大きな間違いだったと思われます。彼らのステートメントに誤読の原因があるのですが、その目的はアート市場を批判することではありませんでした。「お金」という制限を外すことによって、アート市場という閉鎖された市場を開くことだったのです。キャプションとともに価格が提示されている通常のアートフェアでは、鑑賞者(購入者)は価格という基準を元に作品を鑑賞します。しかし、その基準を外してしまえば、鑑賞者は作品と直接向き合うことになります。結果的に、作品を自らの目だけで判断しなければならないので、鑑賞者にとっては重荷になる可能性もあります。しかし、このような意見はアートを見慣れた人たちの意見です。アートを見慣れていない人たちにとっては、価格がつけられていないことは負担の軽減になるかもしれません。例えば、1億円の値段が付いている作品を前にして、なぜ1億円の値段がついているのかその理由が全く分からない場合、自分はその市場から弾きだされた気持ちになるでしょう。このように、価格の理由が分からないことが作品鑑賞の障害になっている場合が多いのです。むしろ、彼らは価格なしで素直に鑑賞することを「許可されている」と感じるようになるのです。このように、0000は一貫してこれまでアートに興味を持たなかった人々を巻き込もうとしています。

さて、結果はどうだったのでしょうか。正確ではないのですが、100点程度の展示作品のうち約半数が交換成立となったのではないかと思います。では、購入者はどのようなsomethingを提示したのでしょうか?一言で行ってしまえば、それはコミュニケーションでした。例えば、お寿司をおごる、応援する、という内容のものが多かったように感じました。結果的に鑑賞者が求めているのはコミュニケーションだったということになると思います。もちろん、展示の機会を与えるといった具体的に活動をサポートする提示もあったのですが、少数でした。「お金」という制限を外すことで鑑賞者や作家の求めているものがコミュニケーションであることが分かったことになります。アーティストや鑑賞者が何を求めているのかを明らかにした点ではとても価値のある企画でした。
しかし、お金という制限を外したところでアート市場が崩れるわけではありません。鑑賞者と作家が求めているものが分かった今、それでも「お金」による売買が継続するアート市場を開かれた魅力的な場にしていくために何が必要なのかを考えださなければならないということが、この企画が問うたことだったのではないでしょうか。

ART FAIR FREEウェブサイト
出品者鈴木携人さんのブログ記事



■大人気−2010円展
ART FAIR FREEとともに0000の代表的な企画となったのが全ての作品を2010円で販売する2010円展です。この企画は前述のART FAIR FREEとは逆に、2010円という制限を設けることで、アートを手に入れる人を増やそうということが目的でした。2010円という価格設定は、同時期に開催されていたアートフェア京都の入場料2000円にプラス10円で作品が買えてしまう!ということと、今年が2010年であることに由来します。
この企画は2010円という制限が分かりやすかったためか、大人気の企画となりました。初の企画は0000単独での企画でしたが、その後、同時代ギャラリーと大丸心斎橋店との共催という形で計3回開催されました。大丸心斎橋店での展示ですでにfinalと銘打たれているため、この企画が継続されることはありません。
この企画で最も問題になるのは2010円という異常に安い価格設定です。谷口さんの言葉を借りれば、この価格設定は購入者本位の価格設定であるとうことになります。確かに、3回の企画で約450点もの作品を売り上げたことが、需要があったことを証明しています。ギャラリーでの個展では一点も作品が売れないことも多々あることを考えれば、この販売数は驚異的な数字です。そして、多くの購入者が始めてアートを購入する方だったそうです。価格設定が低すぎたとしても(当然、低すぎます)これほど多くの人にアートを購入するという行動に移させたことはアートをより一般的に広めていくという彼らの目的に適ったものです。しかし、この価格設定では低すぎることも明らかです。それゆえに、彼らは3回目にしてfinalと銘打ち、この企画を封印しました。
では、作家の視点から見ると2010円展にはどのような意味があったのでしょうか?まず、2010円では利益が出ないでしょう。それにも関わらず、総計200名以上の作家がこの企画に参加しました。これほど多くの作家が2010円であっても作品を展示し誰かに購入して欲しいと考えているのです。そして、450点もの作品が彼らの希望通りに誰かの手に渡りました。2010円という価格は明らかに低すぎたとしても、交換を成立させたという点は評価されるべきです。
さて、先にこの企画を2010円という制限を設けた企画だとまとめました。一方、ART FAIR FREEでは逆に制限を外していました。彼らはこのようにアート市場の制限を外したり、新たな制限を加えたりすることで、一つの制度を作っていると解釈できます。そして、彼らの企画が制度である限り、その制度を破ることも可能なのです。0000が求めていたのは彼らが作った制度によって、作家が創作のヒントを得ることではなかったかと思います。そして、2010円展ではその制度を破った作家もいました。植田はるきさんはキャンバスだけでもゆうに2010円を超えるだろう100号のキャンバス作品を出品しました。100号のキャンバス作品は別段めずらしくはありません。しかし、2010円という制限の中ではなぜ彼女がそのような作品を出したのか?と疑問に思われます。つまり、0000が敷いた2010円という制度を問い直す作品となるのです。ただの100号のキャンバスが制度という文脈のもとで、新たな意味を持ってくる、0000の企画の醍醐味はこの点にあります。つまり、大きな物語の終わった現代において、文脈を作り出す契機を与えているのです。

¥2010 exhibition -Spring 2010
¥2010 exhibition -Summer- @同時代ギャラリー
¥2010 exhibition-Final at 大丸心斎橋店
阿部和壁さんのブログ記事



その他にも0000はトーキョーワンダーサイト本郷でのグループ展ART BATTTLE ROYALE(村上隆氏との出会いの場ともなった)でスペースの「壁を白く塗る」だけの作品?や、京都のアートシーンを盛り上げるための京都藝術という活動など結成1年を経ずして様々な活動を行っています。
ART BATTTLE ROYALEウェブサイト
(これで0000を知った人も多いと思いますが、私も関係していたのでここでは細かく触れませんでした。)
京都藝術ウェブサイト


彼らの目的は「「日本のアートシーン」を総合的につくり上げていくこと」です。ここでいうアートシーンとは村上隆さんの言葉を借りればルールと言うことができます。彼らは日本のアートシーンに新しいルールを提案しているのです。彼らの活動に掴みどころがないように思われるとすれば、それは誰のルールにもよらず自分たちでルールを創りだそうとしているからです。例えば、ART FAIR FREEでは「お金」というルールをのぞく代わりに「交渉」というルールを設定し、2010円展では固定価格というルールを設定しました。
0000festでは企画に加えて、0000初の個展があります。これまでは彼らが作ったルールの中にアーティストや鑑賞者を巻き込む活動をしてきました。個展では、彼らのルールに従って、彼らのクレジットが入った作品が提示されることになります。OPEN前から話題になった「ギャラリーの壁を広告にする」など、どのような展示に仕上がっているのか。楽しみです。