青山悟展「Glitter Pieces #1-22:連鎖/表裏」

近づいてみると何が描かれているのか分からない。青山は刺繍によってイメージを作り出す。刺繍であるがゆえに、距離を持ってみないと何が描かれているのか分からない。それは、点描を見るときと同じ状況だ。

表と裏を行き来する糸によって創りだされたイメージの半分しか、私たちは見ることができない。まるで、彫刻作品のように台に乗せられた「絵画」は、裏側を見ることを拒否している。例えば、作品の後ろに回るとそこにはもう一つの作品の表があるだけだ。背中合わせに作品が展示されているということである。鑑賞者には表を見ることしか許されない。裏を見たいという欲求だけが高まってくる。いや、私たちが見せられているのは作品の裏なのか、表なのか。そもそも、「絵画」に裏はない。大抵の場合、「絵画」の裏側には薄汚れたキャンバスがあるだけだ。しかし、青山の作品には裏がある。そう思わせるだけでも、刺繍という「絵画」手法の特性が表れていると言えるだろう。

青山が描くモチーフは新聞の文字や家族写真などありふれた風景だ。ポップなモチーフと言って差し支えないと思うが、青山の作品にポップな印象はない。モチーフはポップなのだが、刺繍という方法が立体性を持たせているからだ。

土屋誠一はこの展覧会に向けて「ミシンの再発明―青山悟」という文章を寄せている。その中で、土屋や青山がミシンという近代の工業化に対応するメディアを、敢えて遅く使用することで、新しいメディアとしてのミシンを再発明したのだと述べている。だとすれば、あっという間に消費されるモノやアイドルなどのイメージを批判的に描いたほうが分かりやすい。しかし、青山が描くのは新聞の文字や家族写真である。

ミシンに対置されているのはカメラだ。カメラによって一瞬で創りだされたイメージを、生産という場において、時間的に引き伸ばしていくこと。あるいは、一本の糸が支持体の裏表を行き来することによって、イメージを繋げていくこと。青山は消費社会を批判的に捉えるのではなく、一生産者としてただひたすらミシンと向き合っているのだ。

ミズマアートギャラリー


青山悟 「Glitter Pieces #1-22:連鎖/表裏」
会場: ミヅマアートギャラリー
スケジュール: 2009年03月11日 〜 2009年04月11日
住所: 〒153-0051 東京都目黒区上目黒1-3-9 藤屋ビル2F
電話: 03-3793-7931 ファックス: 03-3793-7887