若松孝二監督『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』
「みんな勇気がなかったんだ」
当時未成年で少年Aと呼ばれた加藤元久が、あさま山荘で最後に叫ぶ。
このために若松は連合赤軍をテーマに映画を撮ったのではないだろうか。
リンチ事件メンバーにとっての勇気とは、森と永田に反対してリンチをとめることだろう。彼らにはその勇気がなかった。彼等を擁護することは全くできない。たったそれだけの勇気がなくても「革命」を信じることができた。そんな時代だったのだろう。
そして、森恒夫にとっての勇気は恐らく自殺だったのではないだろうか。森は逮捕された後すぐに自殺しているが、常に自殺を望んでいたように思える。
ストーリーは、数々の出版物で分析された結果をもとにしている。従って、森・永田=悪/坂口・加藤・遠山など=善とはいかないまでも「可」「被害者」として描いている。この点については、普通すぎてあまり面白くなかった。
そう、この映画は結局「映画は現実を超えることができない」ことを実証してしまっている。あまりにも凄惨な事件であったために、映画が陳腐に見えてしまった。
しかし、ウェブ上に書かれている識者の反応を読むと、「目をそらしたくなるような」内容だったらしい。確かにひどい。あまりにもひどい。しかし、現実はもっと凄惨だったはずで、それは出版物を読めば想像できる。そして、映画よりも本を読みながら頭の中で想像した情景のほうが凄惨なのだ。それでも識者が「目をそらしたくなる」のは、彼等がまだあさま山荘を乗り越えられていないからだろう。
換言してしまおう。彼等はまだあさま山荘を「総括」できていないのだ。
ところで、役者陣はなかなかよかった。坂井真紀はさすがである。女性らしいがために殺された遠山を見事に演じている。重信房子役の伴杏里とのシーンもかっこいい。しかし、重信の描写があまりにもかっこよすぎるのが目についた。その他にも、管理人役の奥貫薫もすばらしい。連合赤軍にも警察にも組みしない揺れる心を見事に演じきっている。彼女の演技が社会の捉えられ方を表しているのだろう。
しかし、何と言っても一番はARATAである。坂口はむちゃくちゃなやつではあるが、一番かっこよく描かれていて、ARATAがいることで画面が引き締まっていた。その他の役者は、演じすぎている面がある。それは、連合赤軍自体が演劇のようなものだったことに起因するだろう。しかし、ARATAがそのちゃちな演劇性に現実性を持たせている。この点は高く評価されるべきだろう。
○出演者
遠山美枝子:坂井真紀
坂口弘:ARATA
永田洋子:並木愛枝
森恒夫:地曵豪
重信房子:伴杏里
加藤元久:タモト清嵐
あさま山荘管理人:奥貫薫
ナレーション:原田芳雄
特別賞は、チョイ役で出演していた宮台真司さんに差し上げましょう。
この他にも、あさま山荘を描いた作品はいくつかある。私はあさま山荘の演劇性を表現した「光の雨」が今のところ一番よかった。
今後も、あさま山荘を題材にした映画が撮られていくだろう。
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