大浦信行「遠近を抱いて」出品拒否
沖縄県立博物館・美術館で開催予定の「アトミックサンシャインの中へin沖縄 日本国平和憲法第九条下における戦後美術」(渡辺真也キュレーション)に出品予定だった、大浦信行の「遠近を抱いて」というコラージュ作品が、館長の意向により出品取り消しとなりました。
「遠近を抱いて」はいわくつきの作品です。かつて富山県立近代美術館で展示予定だったにも関わらず、作品を売却、掲載されたカタログ全てを焼却されました。
なぜでしょうか。
今ではウェブサイトで見ることもできる作品です。また、「アトミックサンシャイン展」はニューヨークや東京でも展示されている展覧会で、その時は問題になりませんでした。
今回は館長の意向が大きいようです。これは、展示前に館長が作品を確認していたということですから、経営的にはよくできていたということになります。名目だけの館長も存在する中で、展示まで確認していたのは立派だと思います。
しかし、これは問題にならざるを得ません。大浦氏は富山の問題で、最高裁で棄却され全面敗訴、ということですから、展示しないという方針もありえるでしょう。しかし、少し時代遅れの勘を否めません。
例えば、電車のつり広告には天皇の写真がよくかかっています。週刊誌では天皇ゴシップは売れ筋のネタになっています。それが良いとは思いませんが、美術作品で天皇を扱うことが危険であるにしても、それを認めないわけにはいかないと思われます。
もう一つ、沖縄の特殊性が問題の一端でしょう。沖縄は天皇を批判する立場にあります。「本土批判」という沖縄の方の気持ちには私たち「本土人」何とも答えにくいのです。とにかく、沖縄の基地問題は早期に対処しなければなりません。そこには、当然アメリカとの関係があります。沖縄は「本土」と「米国」を怨み、羨む宿命にあるのです。
これについては、沖縄県民と「本土」の人間が長く議論を交わしていく以外に方法がないでしょう。しかし、日本を国家として本気で機能させようとするのであれば、必ず解決されなければならない問題です。
さらに、館長自身の問題があるでしょう。牧野浩隆館長は銀行出身なのだそうです。従って、マネジメント能力には長けているでしょう。さらに、政治力もあるようです。芸術についても理解があるのだと思います。しかし、一筋縄ではいかないのは芸術も同じです。マネジメント能力だけではどうにもならないときがあります。この問題にどう対処していくのか、注目したいと思います。
チンポムの「ピカッ」(広島)に続き、戦争の特殊な記憶を持つ地域で、美術と戦争についての問題が、同時期に起きたことになります。
もう一度、美術は戦争について考えなおさなければなりません。
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