阿修羅展

平城京遷都1300年を記念しての展覧会です。

この展覧会、まず人の多さに驚きます。すでに50万人を超えたということですから、本展同様東京国立博物館で開催された去年の薬師寺展(約80万人)と同じくらいの総入場者数にはなるでしょう。平日でも1万5千人入ることもあるということですから、並ぶ覚悟をして言って下さい。ちなみに狙い目の時間帯は土日の夕方以降です(土日は20時まで開館しています)。

さて、平成館のエスカレーターを上って会場に入ると淡い赤でライトアップされた通路の先に2015年完成予定の興福寺金堂のVR(ヴァーチャルリアリティ)写真があります。なんとも恭しい展示ではないですか。そして、なんともお金がかかっているのです。主催の朝日新聞の熱の入れようが伝わってきます。

初めの部屋には、2000年以降発掘された数々の遺品が展示されています。たとえば金の延べ棒みたいなのとか、お金とか、銀椀、杯、水晶、ガラス玉、鏡などです。興福寺創建当時の遺品ですから、中国(唐)からの輸入品も多く、日本で造られたものと対比しながら見ることができます。どちらかというと、唐のほうが幾何学的で日本のほうがおおらかという感じです。この点については、陶器などと対照的でなかなか興味深いものがありました。もう一点、金や銀の延べ棒が出てきたということの意味をどう受け取るかが重要でしょう。簡単に言ってしまえば、興福寺はとってもお金持ちだったのです(今でもお金持ちでしょう)。それは、光明皇后の発案で建設されたこと、藤原氏の氏寺であったことなどに由来します。その興福寺の仏像は今でも「美術的価値」が非常に高いのです。今も昔も、必要なのはやっぱり金と権力ですね。皮肉ではなく、それらがあれば、本当にいいものを作ることができるのです。

次の部屋に入る前に、阿弥陀三尊像が展示されています。この展示のすごいところはこの像が逗子から出して展示されていることです。蓮がにょろっと伸びた上に阿弥陀仏が座っているのですが、その地の部分に描かれた「蓮の池」を見ることができるのは非常に貴重です。法隆寺では真っ暗な部屋の奥の方にある姿しか見られないのでこれはじっくり見ておいて損はしません。飛鳥時代の彫刻ですが、なんとも美的な価値はすでに完成されていると感嘆してしまうような造型だと思います。

次の部屋では、「八部衆」「十大弟子」が展示されています。普段は見ることのできない背中まで見られるのは貴重です。さて、本展では「阿修羅像」がメインになっていますが、「阿修羅像」は「八部衆」の中の一つです。これらの像は国宝に指定されていますが、指定された名称は「八部衆」だそうです。「阿修羅像」が早くみたいがためにこの部屋をさらっと見てしまいそうですが、これらも国宝なのです。さらに、「阿修羅像」と同様に非常に人間的な表情をしている点が興味深いです。少年の憂いとでも言いましょうか、手を合わせて「拝む対象」というよりは「共感の対象」に映ります。ちなみに私は「五部浄像」(上部しかない像)が一番好きでした。十大弟子も国宝で、これまた人間的です。私は「富楼那像」のような師匠が欲しいな、などと思いながらみていました。

さて次がいよいよ、「阿修羅像」です。スロープを降りると阿修羅をぐるっとめぐりながら見ることができるようになっています。「八部衆」の他の作品に比べてライトが様々な方向からたくさんあてられているので、その色彩や造形を細かく見ることができます。左周りに動きながら見て下さいと、再三警備員から指摘されるのでちょっとめんどくさい感じになりますが、やっぱりカッコイイですね。みうらじゅんも「阿修羅ってやっぱりカッコイイですよ」と言っていましたが、今現在でもイケメンだと思います。そして、たぶんソフトマッチョです。立ち方が不安定なのですが、その表情も不安定だと言ってよいでしょう。仏教上の「懺悔」の思想が背景にあるそうです。私には「懺悔」と同時に、何かを覚悟した表情のように見受けられました。そうした苦しいながらも前に進む若い像として見たとき、現在の美術的価値からみても、すばらしいものだと思います。

この展覧会にはさらに続きがあって、興福寺鎌倉時代の仏像を見ることができます。天平の仏像とは明らかに異なる像が並んでいます。それは、明らかに鎌倉時代という乱れた時代を表しています。天平の仏像と比較して最も顕著なのは「動き」が非常に大きくなることでしょう。躍動感は鎌倉彫刻の真骨頂だと思います。めずらしい薬王・薬上菩薩像も見ることができます。そして、近年運慶作だと分かった釈迦如来像の頭部も展示されています。この仏頭はすばらしいできだと思います。全てを受け入れた上で、さらに遠くを見つめる仏の顔はまさに「拝む対象」だと感じました。この展覧会の仏像の中で「拝みたくなる仏像ベスト1」は「釈迦如来像頭部」でした。

未だに仏像をミュージアムで見ることに多少の違和感を感じてしまいます。しかし、ヨーロッパでは宗教美術を「芸術」として鑑賞することはしばしばありますし、むしろ「芸術」の基礎は宗教にあります(科学の基礎もおそらく宗教にあるのですが)。その意味では、ミュージアムを輸入して150年たってようやく、museumという外来語を「日本の博物館」に翻訳でき始めたのかと考えたりもしました。


興福寺創建1300年記念「国宝 阿修羅展」
会場: 東京国立博物館
スケジュール: 2009年03月31日 〜 2009年06月07日
開催時間 9:30-18:00、5月7日(木)休館
住所: 〒110-8712 東京都台東区上野公園13-9
電話: 03-5777-8600

「国宝阿修羅展」のすべてを楽しむ公式ガイドブック (ぴあMOOK)

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一個人 (いっこじん) 2009年 06月号 [雑誌]

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芸術新潮 2009年 03月号 [雑誌]

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阿修羅のジュエリー (よりみちパン!セ シリーズ44)

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